海外患者会参加報告②講演:各疾患の専門医から
HNRNP疾患の第一人者の先生方の講演を拝聴することができました。
臨床の先生だけでなく基礎研究者の先生、バイオ関連のベンチャー企業、研究機関の科学者も来られていて、そのような専門医の先生方が患者家族の前で疾患について、研究成果、また研究に参加する意義や、その重要性を分かりやすくお話しいただきました。
このように、当事者である患者家族が専門的な内容を分かりやすく聞く機会があることで、疾患、また研究に参加することの意義を正しく「理解」することで積極的な活動と、研究者とのコラボレーションを可能としているのだと思います。
全てのHNRNP疾患を専門としていて、 2021年のGenome Medicineに掲載された「HNRNP遺伝子の稀な有害な変異は共通の神経発達障害をもたらす」の1st AuthorでHNRNPファミリー財団の共同設立者でもある、シアトル小児病院のマディー・ギレンタイン先生からHNRNP疾患全体に関する遺伝子関連のご講演がありました。
講演の写真
患者会プログラム演者の略歴より(日本語に翻訳)
マディー・ギレンタイン先生と一緒に
HNRNPKの遺伝子疾患であるAu-Kline症候群の遺伝子を同定し、Au先生と共著で論文出されたKline先生よりHNRNP疾患全体の症状などの臨床的な特徴のご講演を拝聴いたしました。
2023年にニューヨークで開催された第1回HNRNPファミリー財団のミーティングの振り返りから、各疾患ごとの特徴をお話しくださいました。
全疾患に全て共通するのは知的障害/発達遅延、てんかん発作などの神経学的問題、筋緊張低下、骨格の特徴/問題です。また、一部は、疾患ごとの顔の特徴があったり、泌尿器疾患、心疾患などの問題もあります。
興味深かったのは、各疾患ごとに初めての歩行と発語の平均年齢に言及されていました。歩行に関して H2:3歳、K:3.5歳、U :2.7歳、Q(SYNCRIP) :16ヶ月 発語に関して H2:最小限 K:2.5歳 U:2.6歳 Q:16ヶ月と言われていました。
今後は、H2がYBRP主導で先行していますが他のHNRNP疾患も世界的にNatural History Study(自然史研究)を行い、生体サンプルを集め、そこから疾患研究、治療薬開発を目指すと講演されていました。
患者会プログラム演者の略歴より(日本語に翻訳)
また、疾患ごとの分科会で、同じくHNRNPK Au-Kline症候群の発見者で、HNRNPKのGene Reviewの著者であるAu先生と前述のkline先生から、患者家族に向けてNatural History Studyのデーターの発表、HNRNPKの基礎研究者のPost先生からHNRNPKのマウスモデルについての講演がありました。
当日、会場でAu先生とKline先生、Post先生とも直接ご挨拶させていただきお話しいたしましたが、とても親切で親しみやすい先生方でした。
HNRNPファミリー財団の代表のレイラさん、Au先生と一緒に
患者会プログラム演者の略歴より(日本語に翻訳)
HNRNPU神経発達障害のHNRNPUの遺伝子を最初に同定した一人でHNRNPUのGene Reviewの著者でもあるイギリスから来られていたMeena Balasubramanian先生からも同様にHNRNPUの患者さんに向けてNatural History Studyのデーターの発表をされました。
Meena先生とも直接ご挨拶させていただきましたが、とても親しみやすい先生でした。日本の状況や、日本のUの患者さんに非常に興味を持っていただきました。
患者会プログラム演者の略歴より(日本語に翻訳)
HNRNPH2 、別名バイン症候群を2016年に遺伝子を同定し、こちらの論分で報告されたBain先生の講演を拝聴させていただきました。
HNRNPH2の場合はYBRPの協力で他疾患よりも先行して2021年にNatural Historyの論文も出ていますが、その著者であり、他疾患と同様にGene Reviewの共著者です。
患者会プログラム演者の略歴より(日本語に翻訳)
Bain先生からは、Natural History Studyの最新研究報告がありました。HNRNPH2は2016年にBain先生が6人のH2の女性を報告し、その遺伝子を同定されてから、翌年からYBRPとともに活動されているので8年の歴史があります。2016年は6人でしたが2023年末には22カ国に広がっているそうです。
また、次回に詳しく治療薬の開発状況について記載しますが、その活動の成果としてN of 1+の臨床試験がFDAに承認され今年からスタートします。
下記のバイン先生の講演の写真の図が分かりやすいのですが、患者から、遺伝子のvariant(変異タイプ)や臨床的特徴、重症度、生体サンプルや家族や介護者が何に一番関心があるか?(患者中心アウトカム)を収集することが非常に重要です。治療薬開発の基盤となるデーターとなります。
講演中の写真:スライド希少神経疾患治療薬開発のアウトラインについて
具体的な研究項目として、遺伝子の変異のタイプ(variant)によって重症度に違いがあるか?特にNLS内と外での比較はどうか?を研究されています。
J M Bain Neuro Genet 2021 Figure1より引用 多くの変異がNLSの中にあることが確認されているが、NLS外の変異も稀に存在する。
実際、重症度の違いは全く同じvariantでも存在するので、他にもX染色体の不活化、メチル基パターン、他のバイオマーカー(血液、唾液など)も合わせて検討されているそうです。
コロンビア大学の他の診療科、基礎研究者(Ricupero先生)と協力して脳波パターン(Pini 先生)や整形学的問題についても検討されています。また、SIMON Searchlight 、COMBINED Brain、St Jude病院などの多数の研究機関との協働されているそうです。
また、iPS細胞を活用した研究についてコロンビア大学のRicupero先生とCoreno先生からわかりやすくどのような研究室で研究を行なっているかの講演も翌日ありました。
また、患者家族の関心ごとについても報告されていて、「コミュニケーション、不安感、てんかん発作」がTOP3に上がるそうです。年齢でも違いがあり18歳以下はコミュニケーションが上位ですが、18歳以上だとコミュニケーションもそうですが、それよりも骨格、整形学的問題などが上位になり年齢とともに変わってくるという結果も報告されていました。
こちらは、コロンビア大学の研究者とYBRPのコアメンバーとの写真です。患者家族と多くの専門家が協力しあい、素晴らしい成果を出していると思います。このような活動は他の遺伝子疾患においても理想的なロールモデルとなると、先生方は皆、口を揃えてお話しされていました。
ただ、後述しますがNatural History Study(患者の自然経過を見る研究)の評価のスケジュールと重なったり疾患ごとの分科会の時間もあったので下記に記載している全ての講演を聞くことはできませんでした。拝聴できなかった分は主催した海外患者会の方から後日、講演動画がUPされるのを待ちたいと思います。