海外患者会参加報告③治療薬開発(FDAが臨床試験開始を承認!)

HNRNPH2関連のバイン症候群については、治療薬の開発が進んでいます。

この会議が終了した直後、FDAがn-Lorem財団提供のASO(アンチセンスオリゴヌクレオチド)医薬品に対するN of 1+臨床試験の開始を承認しました。

この試験は2024年9月から開始される予定です。

詳細については、こちらのバイン先生によるアナウンス動画(英語)をご覧ください。

2024年年始には、n-Lorem財団による臨床試験が年内に開始される見込みが立ち、1例での投与が予定されていましたが、さらに2例の追加が決定し、N of 3試験としてスタートすることになりました。

この会議では、n-Lorem財団の臨床開発担当であるローレンス博士から、患者家族に向けて、n-Loremの紹介と、具体的にどのようなプロセスで臨床試験が開始されるのかについて、分かりやすく説明がありました。

まず、n-Lorem財団とは、ASO医薬品のパイオニアであるIONIS製薬会社の創立者が2020年に設立した財団で、非常に希少な疾患患者のために、オーダーメードでASO医薬品を開発し、生涯にわたり無償で提供することを目的とした非営利機関です。この財団は寄付金や助成金で運営されています。

通常の臨床試験では、疾患と薬剤が決まってから治験に参加する患者を募集しますが、n-Loremは、超希少疾患の患者が先に申請を行い(実際には患者の主治医などが行います)、その後、その患者の遺伝子変異に合わせてASO医薬品を開発するという順番になっています。

これは、まさに究極の個別化医療です。また、この治療薬は無償で患者に提供されます。

希少疾患患者は、その患者数の少なさから、一般の製薬会社による開発では採算が取れず、治療薬が開発されないという現状がありますが、n-Lorem財団はそのような社会課題を解決するための素晴らしい取り組みです。

ASO医薬品は、通常の医薬品とは異なり、短期間かつ低コストで創薬が可能であること、また、2021年にFDAがASO医薬品に関するガイドラインを発表したことにより、FDAへの申請も短期間で行えるようになったことが、n-Loremの活動を可能にしています。

ASO医薬品についても簡単に説明がありました。細胞内では、DNA→RNA→タンパク質という順番で生成されます。

従来の医薬品はタンパク質をターゲットにしていましたが、タンパク質は非常に複雑な構造をしているため、時間がかかります。一方、RNAは4つの塩基からなるシンプルな構造であるため、短期間で済むのです。

具体的には、従来の医薬品では10年以上かかるところ、ASO医薬品の場合、通常なら2年以内に400~600の候補の中から1つのASOを選び出し、見つかったらGLPに従った動物実験で毒性を検査し、GMPに準拠して治療薬を製造します。その後、FDAにIND(治験開始届)を申請し、承認されたら臨床試験が開始される手順です。

HNRNPH2に関するASO治療薬の作用機序は、変異したHNRNPH2をASO治療薬で抑え、誤ったタンパク質の生成を止めることです。

さらに、H2を抑制することで、正常なH1が代わりに増え、正常な機能が回復するという仕組みです。HNRNP遺伝子ファミリーは互いに関連していることがわかります。

ちなみに、n-Lorem財団はこれまでに18件の疾患を申請し、そのうち14件が承認され、12人の患者に治療薬を提供しました。5人の患者が臨床的にベネフィットがあったと評価されており、他の患者についてはまだ評価に時間が必要です。

HNRNPH2における治療のゴールとしては、「運動機能改善」「てんかん発作予防」「病勢進行抑制」が挙げられています。ただし、詳細は患者ごとにその表現型や症状に応じて治療目標を設定し、個別のプロトコールが作成される予定です。

評価項目については、他の治験と同様にベースラインとスケジュールに従い、バイオマーカー(血液検査、MRI、脳波検査)やその他の評価を行います。そのため、Natural History Studyのように他の患者も含めたバイオマーカーのデータがあることは非常に重要であると話されていました。

実際の投与はコロンビア大学でバイン先生によって行われます。最初の3ヶ月は毎月投与(投与方法は脊髄注射)、その後は12週間ごとの投与です。投与前日に入院し、投与後24時間は評価のため滞在する必要があります。

なお、治療薬は無償で提供されますが、臨床試験にかかるコスト(管理費用、評価のための検査費用、入院費用など)や、患者家族の渡航費や滞在費についてはn-Lorem財団からの提供はありません。そのため、コロンビア大学もできる限り協力してくれるそうですが、患者会が資金を募っています。

こちらから、YBRPに寄付ができます。ぜひご協力をお願いします。

当日の講演の様子

また、St Jude小児病院でも、ASO医薬品を研究・開発していて、こちらのJ Clin Invest 2023に掲載された論文「hn RNPH2関連の神経発達障害のマウスモデルがHnrnph1の遺伝的補償のメカニズムを明らかにした」の1st AuthorのKorff博士からの発表もあり,前述しましたが、マウスの実験結果、HNRNPH2を完全にノックアウトするとHNRNPH1が補足的にH1が増加すること、その機序から、マウスにASOを投与すると、運動能力やてんかん発作抑制にはいい結果が出たとお話しされていました。非常に期待ができると思います。